阿部 一也(あべ かずや)
監修いただいた先生の紹介 監修:阿部 一也(あべ かずや)先生

医師、日本産科婦人科学会専門医。東京慈恵会医科大学卒業。板橋中央総合病院の産婦人科医長として妊婦健診はもちろん、分娩の対応や新生児の対応、切迫流早産の管理などにも従事。
婦人科では子宮筋腫、卵巣嚢腫、内膜症、骨盤内感染症などの良性疾患から、子宮癌や卵巣癌の手術や化学療法(抗癌剤治療)も行っている。
PMS(月経前症候群)や更年期障害などのホルモン系の診療なども幅広く診療している。

SNSで「夫がタバコをやめない」という声を目にすることがあります。

タバコが赤ちゃんに与える影響は非常に深刻です。タバコの害として最大なものは死であり,特に乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクが高まることは見逃せません。

赤ちゃんを守るために「なぜ禁煙が大切なのか」、その理由を知ることで一歩前進できるかもしれません。この記事を読んで、禁煙を考えるきっかけにしていただけたら幸いです。

たばこによるSIDSへの影響と恐怖

SIDS(乳幼児突然死症候群)は、健康そうに見えた赤ちゃんが突然亡くなる原因不明の現象です。

とくに生後2〜4カ月の赤ちゃんにリスクが高く、その突然性や原因不明な要素から、多くの親が強い不安を抱いています。この不安は決して過剰ではなく、赤ちゃんを守りたいと願う親にとっては、当然の意識といえるでしょう。

赤ちゃんが産まれて一番怖いのはSIDS。たばこは絶対にやめなきゃダメだよ!!。

赤ちゃんへの影響は後悔しきれないほどの大きさにゃん。タバコはもってのほかにゃ。

受動喫煙でもSIDSのリスクが上がるって言われてるから、おそろしいにゃん。

SIDSのリスクを高める要因

SIDSの原因は完全には解明されていませんが、研究によりいくつかのリスク要因が明らかになっています。特に、タバコの煙に含まれる有害物質が赤ちゃんに悪影響を及ぼすことがわかっています。以下は、SIDSリスクを高める代表的な要因です。

  • うつぶせ寝
    赤ちゃんの顔がふさがれてしまうことで呼吸が妨げられ、窒息のリスクが高まります。安全な睡眠姿勢として、あおむけ寝が推奨されています。

  • 柔らかい寝具
    柔らかい寝具ですと、うつ伏せになった際に顔が埋まりやすく、窒息しやすいため、赤ちゃん用の寝具が推奨されています。

  • 低出生体重や早産
    呼吸調節機能が未熟で、通常よりSIDSリスクが高いとされるため、こうした赤ちゃんには特に慎重な環境が必要です。

  • タバコの煙(受動喫煙や妊娠中の喫煙)
    妊娠中に喫煙をする、または家庭内での受動喫煙があると、赤ちゃんのSIDSリスクが大幅に増加することが確認されています。この記事では、タバコの件を掘り下げていきます。

タバコがSIDSリスクを高める理由

タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素は、赤ちゃんの呼吸調節機能や中枢神経系に悪影響を及ぼし、SIDSリスクを増大させる原因とされています。とくに睡眠中に呼吸が停止する可能性が高くなる理由として、次のような要因が挙げられます。

  • 呼吸が妨げられるリスク
    タバコの煙に含まれる一酸化炭素が赤ちゃんの血中に入り、酸素供給が不足することで呼吸停止リスクが増加します。

  • 神経系の乱れ
    ニコチンは赤ちゃんの中枢神経系に影響を及ぼし、呼吸の調節が乱れやすくなります。この結果、赤ちゃんは酸素不足に陥っても呼吸を促す反応がうまく機能せず、SIDSのリスクが高まることがわかっています。

妊娠中の喫煙が胎児に与える影響

妊娠中にタバコを吸うことは、胎児の健康に直接的な悪影響をもたらします。母体が吸い込んだニコチンや一酸化炭素は胎盤を通じて胎児に届き、発育に重大な悪影響を及ぼすことが確認されています。

  • 低体重で生まれるリスク
    喫煙によって胎児の成長が阻害され、低体重で生まれるリスクが増加します。低体重児はSIDSリスクが非常に高いため、妊娠中のタバコは赤ちゃんにとって大きな危険因子です。

  • 酸素供給の不足
    一酸化炭素が胎児の血流に入り、酸素の供給が不足することで、出生後のSIDSリスクが増加します。

親の禁煙がSIDS予防に役立つ理由

SIDSは原因が完全には解明されていないため特効薬はありません。

しかし、家庭内での禁煙が、SIDSリスクを大幅に減少させるのに有効な手段であることは、医学的にも明らかにされています。受動喫煙を含むタバコの影響を排除することで、赤ちゃんのSIDSリスクが下がることが多くの研究で確認されています。

SIDS以外の健康リスク

タバコの煙はSIDSリスクだけでなく、赤ちゃんにさまざまな健康リスクをもたらします。成長過程にある赤ちゃんは、大人よりも有害物質に敏感なため、タバコの影響が健康被害に直結しやすいです。以下に、代表的な健康リスクを示します。

タバコの煙がSIDS以外にも、赤ちゃんにいろいろな健康リスクをもたらすんだね。

うん、特に呼吸器の感染症や中耳炎のリスクが高まるって聞くと、心配になるにゃ。

耳や気道の炎症って、赤ちゃんにとってはとても苦しいにゃん。タバコの煙を避けられる環境作りが大事にゃ。

呼吸器感染症への影響

タバコの影響は深刻で、赤ちゃんの気道や肺にダメージを与え、呼吸器感染症へのリスクを高めます。受動喫煙が続くと、気管支炎や肺炎にかかりやすくなる原因にもなります。

  • 気管支炎・肺炎
    受動喫煙によって赤ちゃんの気道が炎症を起こしやすくなり、気管支炎や肺炎のリスクが増大します。特に低出生体重で生まれた赤ちゃんは抵抗力が弱く、受動喫煙の影響をより強く受けます。

  • 喘息のリスク
    幼児期にタバコの煙にさらされると喘息の発症リスクが高まり、肺の発育も阻害されやすくなります。

中耳炎と聴覚発達への影響

タバコの煙によって引き起こされる炎症は、耳にも悪影響を及ぼし、中耳炎の発症リスクを増加させます。中耳炎が続くと、聴覚や言語発達に悪影響を及ぼす可能性が高まります。

  • 急性・反復性中耳炎
    耳管に炎症が起きやすくなり、中耳炎が繰り返されると聴覚への影響が懸念されます。特に乳幼児期は聴覚とともに言語能力が発達する時期のため、受動喫煙が原因で中耳炎が続くことは大きな影響をもたらします。

  • 慢性中耳炎
    耳の炎症が慢性的に続くことで、聴覚に障害が残るリスクがあり、言語発達にも支障をきたす可能性があります。

誤飲事故の危険性

家庭内にタバコがあると、赤ちゃんが誤ってタバコや関連製品を飲み込む危険性も高まります。タバコは強い毒性を持っており、少量でも健康に重大な悪影響を及ぼします。

  • タバコの誤飲
    親がタバコを口にしている姿を見た赤ちゃんが、タバコを「食べ物」と勘違いして飲み込んでしまうことが多々あります。タバコや電子タバコのカートリッジに含まれるニコチンは強い毒性を持ち、少量でも急性中毒を引き起こし、赤ちゃんの命を脅かします。

  • 中毒症状
    誤飲によって嘔吐やめまい、呼吸困難などの急性中毒症状が現れ、迅速な対応が必要です。体が小さい赤ちゃんは症状が急速に進行するため、緊急対応が必要になることが多いです。

子どもを育てるなら責任を持って禁煙を

親がタバコを吸うことによる影響は、目に見える煙の受動喫煙だけにとどまらず、「サードハンドスモーク」(第三次喫煙)という残留リスクもあります。

赤ちゃんを健康に育てるためには、喫煙をやめ、家庭全体を禁煙環境に整えることが必要不可欠です。

タバコの煙が赤ちゃんに悪影響を与えることはよく知られているけど、煙がないところでも影響があるって知ってた?

タバコを吸った後の成分が、服や家具に残ることで、赤ちゃんがその影響を受ける可能性があるんだにゃ。

サードハンドスモークの危険性

サードハンドスモークとは、喫煙後に残るタバコの有害成分が家具や衣類、壁などに付着し、時間が経っても空気中に放出され続ける状態を指します。

たとえ親が赤ちゃんのそばでタバコを吸わないようにしても、タバコを吸った後の衣類や手、髪の毛などに有害成分が付着しているため、赤ちゃんがその影響を受けてしまう可能性があるのです。

  • 家具や壁紙に付着する有害物質
    タバコの煙の残留物は家具やカーペット、壁紙などに付着し、そこから長期間にわたって空気中に再放出されます。つまり、赤ちゃんが生活する家庭全体を、タバコによって汚染される危険性があるのです。

  • 直接接触によるリスク
    赤ちゃんは好奇心旺盛で、手に触れたものを口に入れることが多いため、タバコの残留物に触れ、それを体内に取り込んでしまう危険があります。たとえ親が赤ちゃんの目の前で喫煙していなくても影響を及ぼすため、喫煙を強くおすすめします。

家族の健康を守るための禁煙の重要性

家庭内の喫煙が続く限り、赤ちゃんは常にタバコの影響にさらされます。親が禁煙をすることで、赤ちゃんはもちろん、喫煙者の健康寿命がのびることにも繋がります。

  • 赤ちゃんの健康と未来を守る
    家庭全体で禁煙を徹底することは、赤ちゃんの健康と将来にとって欠かせない選択です。喫煙による健康リスクを排除することで、赤ちゃんが健やかに成長できる環境が整います。

  • 家族全員の健康向上
    親が禁煙することで、赤ちゃんだけでなく家族全体の健康が向上します。喫煙をやめることは、成人病やがんのリスクを減少させ、親自身の健康にも大きなメリットがあるのです。

  • 未来のために今すぐ行動
    禁煙を決断することは、赤ちゃんの未来を守るための第一歩です。赤ちゃんが健やかに育つために、今すぐ家庭内の禁煙環境を整えることが求められます。

赤ちゃんを授かることは、親としての大きな責任が生まれることを意味します。

タバコのやめることは、赤ちゃんが健康で幸せに成長するために欠かせない最低限の配慮です。家族全員が禁煙を意識することで、赤ちゃんにとって安全で清潔な環境を提供し、将来の健康を守りましょう。

スマート・ライフ・プロジェクトの禁煙啓発

ととと赤ちゃんは、厚生労働省が推進するスマート・ライフ・プロジェクトに参加しています。国民全体が健康で楽しい生活を送ることを目指し、運動、食生活、禁煙の3分野を中心に具体的な行動を呼びかけています。

特に禁煙に関しては、胎児や乳幼児の健康にも深刻な影響を与えることが知られています。ぜひ禁煙への取り組みを一緒に考えてみてください。

禁煙支援プログラム

禁煙を支援するために、禁煙治療アプリの利用や医療機関での禁煙治療を推奨しています。禁煙は自分の意思だけでは難しいのが現実です。医師のサポートを受けながら確実に禁煙を進めてみませんか?

  • 禁煙外来の利用
    禁煙治療を専門とする「禁煙外来」では、医師による専門的な指導が受けられます。一定の条件を満たすと健康保険が適用され、治療費の負担が軽減されます。

  • 禁煙治療アプリの利用
    スマートフォンを活用した禁煙治療アプリを使うことで、いつでもどこでも禁煙支援を受けることができます。禁煙治療アプリでは、日々の進捗を記録し、医師やサポートスタッフからのアドバイスも受けられるため、目標達成がより確実になります。

スマート・ライフ・プロジェクトは、禁煙を「軽い気持ちで」始めることを提案しており、手軽で続けやすいサポート体制を整えています。ぜひ子どものためにも喫煙をお願いします。

スマート・ライプ・プロジェクトについてはこちらをご確認ください。

禁煙が赤ちゃんの未来を守る!

タバコが赤ちゃんに与える影響は、私たちが思っている以上に深刻です。

特に乳幼児突然死症候群(SIDS)をはじめとする健康リスクは、死亡リスクがあるなど後悔しきれないほどの損失があります。家族全員の健康を守るために、禁煙がなぜ重要なのかを再確認し、禁煙に取り組みましょう。

これだけは覚えて帰りましょう

  • タバコの影響が増すSIDSリスク
    受動喫煙は、赤ちゃんの呼吸機能や神経系に悪影響を及ぼし、SIDSリスクを高めます。

  • タバコが引き起こす他の健康リスク
    呼吸器感染症や中耳炎の発症リスクが増え、タバコの誤飲による急性中毒の危険もあります。

  • スマート・ライフ・プロジェクトの禁煙支援
    スマートフォンを活用した禁煙治療アプリや、禁煙外来の活用で、禁煙がより身近で続けやすいものになっています。

赤ちゃんと家族全員の健康を守るために、今からできることを始めましょう。

禁煙は、子どもへの健康的な環境を提供するために親として最低限の責任です。健康へのリスクを考慮し、一歩ずつ無理なく禁煙に挑戦し、家族全員が安心できる環境を一緒に作りましょう。


この記事を書くにあたり、以下の文献を参考にしました。
参考文献:J-STAGE 健康心理学研究(子どもとタバコにまつわる問題点 )

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